PythonのGIL(グローバルインタプリタロック)とは?仕組みを詳しく解説
Pythonをブラウザで実行しながら実践的に学ぶ
Pythonの基礎からソフトウェアアーキテクチャ,アルゴリズムなどの応用的な内容まで幅広く学べます。
ブラウザ上で直接Pythonコードを試すことができ、実践的なスキルを身につけることが可能です。
Pythonを学び始めると、「GIL(グローバルインタプリタロック)」という言葉を耳にすることがあります。 特にPythonはマルチスレッドが遅いといった話題の裏には、このGILという存在が深く関わっています。
私自身、エンジニア歴10年になりますが、GILについては新人のころにかなり悩まされました。 「スレッドを増やせば速くなるはずなのに、なぜか逆に遅くなる…」そんな経験をしたことがある人も多いのではないでしょうか。
この記事では、GILの正体とその仕組み、そして現場でどう向き合うべきかを、初心者の方にもわかるように丁寧に解説していきます。
GILって何?ざっくり言うと「同時に1つしか動かせない仕組み」¶
まず最初に結論からお伝えします。 GIL(Global Interpreter Lock)とは、「Pythonのプログラムが同時に1つのスレッドしか実行できないようにする仕組み」のことです。
これを聞くと、「え?スレッドを複数作れるのに、1つしか動かせないの?」と思うかもしれません。
そう、その通りなんです。Pythonでは、表面上は複数のスレッドを作って同時に動いているように見えても、実際のところGILが順番に1つずつしか実行させていないのです。
イメージとしては、
1冊のノートを複数人で共有しているけれど、同時に書くとぐちゃぐちゃになるから、1人ずつ交代で書くルールになっている
という感じです。 Pythonの世界では、その「交代ルール」をGILがしっかり管理しているのです。
じゃあ、なんでそんな面倒な仕組みがあるの?¶
ここが多くの人がつまずくポイントです。 「同時に動かせないなんて不便じゃん!」と思いますよね。
でも、そこにはPythonが安全に動くための重要な理由があります。
Python(特に多くの人が使っているCPythonという標準実装)は、内部でプログラムが使うメモリを自動的に管理しています。 このメモリ管理というのは、変数を作ったり消したり、数値や文字列を保持したりといった処理の裏側で、Pythonが常にやってくれていることです。
ところが、このメモリ管理の仕組みはスレッドセーフ(thread-safe)ではありません。 つまり、複数のスレッドが同時にメモリをいじると、データが壊れたり予期せぬ動作をしたりする危険があるのです。
たとえば、次のような状況を想像してみてください。
- スレッドAが変数
x
に「5」を代入しようとしている- 同じ瞬間にスレッドBがその
x
を「10」に変えようとしている
この2つの操作がまったく同じタイミングで起きたらどうなるでしょうか? 結果が「5」になるのか「10」になるのか、それともメモリが壊れて意味不明な値になるのか――予測ができません。
プログラムの世界では、こうした同時書き込みや競合状態を防ぐことが非常に大切です。
もしそれが起きると、Pythonがクラッシュしたり、データが壊れたりしてしまいます。
そこで登場するのが「GIL」という安全装置¶
GILは、いわばPythonの交通整理係のような存在です。 たくさんのスレッドが同時に動こうとしても、「はい、今はスレッドAの番」「次はスレッドBね」と順番を決めてくれるのです。
つまり、GILがロックを持っている間は、そのスレッドだけがPythonの内部処理を行えるようになります。 他のスレッドはGILが解放されるまで待機状態になります。
これをもう少し現実世界にたとえると、こうです。
PythonのGILのイメージ
比喩 | 内容 |
---|---|
ノートをみんなで共有している | Pythonのメモリ(共有リソース)を複数スレッドが使う |
ノートを1人ずつしか書けないルール | GIL(Global Interpreter Lock) |
「今はあなたの番ね」と順番を決める先生 | GILの制御ロジック |
生徒(スレッド)は交代で作業する | 各スレッドがGILを取得→実行→解放を繰り返す |
こうしてGILがあることで、Pythonは安全に動作します。 もしGILが存在しなければ、複数のスレッドが同時にPythonの内部メモリにアクセスし、取り返しのつかないバグやデータ破損を引き起こしてしまうでしょう。
つまり、GILは「制限」であると同時に「守り神」¶
GILはたしかに、マルチスレッドでの並列実行を制限します。 ですがその裏側では、Pythonを安全かつシンプルに保つための重要な役割を担っています。
この「安全性」と「パフォーマンス」のトレードオフこそが、GILが存在する理由なのです。
私自身、エンジニアになりたてのころは「なんでPythonだけこんな仕組みがあるんだ」と思っていました。しかし実際にシステムを作るようになると、GILがなければもっと多くのバグや不安定さに悩まされていたはずです。
GILは敵ではなく、安全にPythonを使うための見えない盾なんです!
ちょっとコードで見てみよう:GILの影響を体験する¶
実際にGILの影響を感じられる簡単な例を見てみましょう。
import threading
import time
def count(n):
while n > 0:
n -= 1
start = time.time()
t1 = threading.Thread(target=count, args=(100_000_000,))
t2 = threading.Thread(target=count, args=(100_000_000,))
t1.start()
t2.start()
t1.join()
t2.join()
print("Threaded version:", time.time() - start)
上のコードは、スレッドを2つ立てて単純なカウントダウンをしています。 「スレッドが2つあるから、2倍速で終わるのでは?」と思うかもしれません。
しかし実際に実行してみると、シングルスレッドで動かした場合とほとんど同じか、むしろ遅い結果になることがあります。
その原因がまさにGILです。 GILがあるために、実際には2つのスレッドが交互に1つのCPUコアを取り合って動いているだけなのです。
GILはどんな時に問題になるのか?¶
では、GILはいつ問題になるのでしょうか。 実は、CPUをたくさん使う処理(CPUバウンド処理)で特に影響が出ます。
たとえば、以下のような処理です。
- 画像処理
- 数値計算
- 機械学習の前処理
など、CPUに負荷がかかるタスクでは、スレッドを増やしても速くならないどころか遅くなることも。
逆に、ネットワーク通信やファイル入出力のように待ち時間が長い処理(I/Oバウンド処理)では、GILの影響はほとんどありません。
GILを避けるには? 実践的な3つの方法¶
ここからは、私自身が実務で使ってきたGILをうまく回避する方法を紹介します。 どれも現場で本当に役に立つテクニックです。
① マルチプロセスを使う(multiprocessing
)¶
スレッドではなく、プロセスを分けることでGILの制限を回避できます。 プロセスは独立したPythonインタプリタを持つため、それぞれが別々のGILを持つのです。
from multiprocessing import Process
import time
def count(n):
while n > 0:
n -= 1
start = time.time()
p1 = Process(target=count, args=(100_000_000,))
p2 = Process(target=count, args=(100_000_000,))
p1.start()
p2.start()
p1.join()
p2.join()
print("Multiprocess version:", time.time() - start)
これを実行すると、スレッド版よりも明らかに速くなるはずです。 CPUコアを2つ以上使えるようになったからです。
マルチプロセスについては、こちらの記事で詳しく解説しております。 👉 Pythonのマルチプロセシングとマルチスレッドの違いとは?
② CやNumPyの力を借りる¶
Pythonで重い処理をすべて自前で書こうとすると、GILの影響を強く受けます。 ですが、NumPyやPandasなどのC実装ライブラリは内部でGILを外して処理を行っているため、実質的にマルチスレッド的な動きをします。
つまり、重い計算はNumPyに任せることが、GILを気にしない最もスマートな方法のひとつです。
③ asyncioを使ってI/Oバウンド処理を並行化する¶
I/O処理(ネットワークやファイル)は、CPUではなく待ち時間がメインのため、非同期処理(asyncio)が有効です。
import asyncio
import time
async def fetch_data(n):
await asyncio.sleep(1)
print(f"Task {n} done")
async def main():
tasks = [fetch_data(i) for i in range(5)]
await asyncio.gather(*tasks)
start = time.time()
asyncio.run(main())
print("Async version:", time.time() - start)
このように、I/Oを待つ間に他の処理を進められるため、全体の速度を大きく改善できます。
「じゃあGILって悪者なの?」と思うかもしれないけれど…¶
ここまで読むと、「GILって不便だな」「いらないんじゃない?」と感じるかもしれません。 でも、実はGILがあるおかげでPythonの実装がシンプルで安定しているという側面もあります。
GILがなければ、すべてのメモリアクセスにロックをつける必要があり、プログラムが複雑化します。 その結果、初心者が扱うには難しい言語になってしまう可能性が高いのです。
私も昔は「GILなんて早くなくなってほしい」と思っていましたが、実務を重ねるうちに「GILがあるからこそ、Pythonが多くの人に使われているのかもしれない」と感じるようになりました。
GILを取り巻く今後の動き:Python 3.13で変わるかも?¶
2023年以降、Pythonコミュニティでは「GILをなくそう」という動きが本格化しています。 特に「no-GIL Python(GILなしPython)」として知られる提案(PEP 703)は、多くの注目を集めました。
Python 3.13では、GILを無効化できる実験的オプションが導入される予定です。 つまり、将来的には「GILありのPython」と「GILなしのPython」を選べる時代が来るかもしれません。
これは、Pythonがより並列処理に強い言語へ進化していく大きな一歩と言えるでしょう。
まとめ:GILを理解すればPythonがもっと楽しくなる¶
最後に、この記事のポイントを振り返ってみましょう。
- GILとは、Pythonが同時に1つのスレッドしか動かさないようにする仕組み。
- CPUバウンドな処理では遅くなるが、I/Oバウンドではあまり影響がない。
- multiprocessing、NumPy、asyncioなどを使えばGILを回避できる。
- 将来的にGILなしPythonが登場するかもしれない。
GILは初心者には少しとっつきにくい概念ですが、一度理解するとPythonの裏側がぐっと身近になります。 そして、GILを知ることで「なぜこういう実装をするのか」が腑に落ちる瞬間が必ず訪れます。
Pythonをもっと深く使いこなしたい人にとって、GILの理解は避けて通れないステップです。 今回の記事でGILの理解をしっかりと深めていきましょう。
ここまでお読みいただきありがとうございました!